2016年6月13日 事業(スモールビジネス)売却・買収の税務

posted Jun 13, 2016, 12:14 PM by Naoko Konno   [ updated Jun 13, 2016, 12:20 PM ]
事業の売却、買収についての最重要ポイントは、次の二つ。

1. 無形資産の評価、とりわけ、顧客リスト、価値ある開発ソフト、営業権。
2. そして、事業全体価値が高ければ高いほどに、検討すべき税務事項も錯綜する。



総論:

売却側の一般的関心事項:

・ 税金を最小化するために、「資産売却方式」よりも、「持分売却、株式等売却方式」を望む。 ただし、売主が個人事業、ワンマンLLCなどの場合には、「資産売却方式」のみ。
・ キャッシュフロー上、分割資金回収条件の場合での債権確保。

買主側の一般的関心事項:

・ 法的リスク回避のためにも、「資産購入方式」を望む。 「持分購入、株式等購入方式」では、偶発債務も引き継ぐことになるからである。
・ 税務上も、購入資産毎の公正時価評価を通じて、減価償却などを効果的に活用し、将来税金の最小化を図る。

両者の妥協点を探ることがポイント:

・ 税務上の優位性を売主、買主、いずれがより多く取得するか、双方の節税効果の合理的な試算、シムレーションを通じて、それを売買価格交渉に反映することが公平。 いずれがそうした力量ある専門化、会計士を活用しうるか、全ての商取引の王道であろう。
・ 買主が執拗に偶発債務を危惧し、株式取得方式を拒否する場合、売主としては、一定の範囲内の債務保証(例えば3年の税務時効の範囲内での税務債務を保証する)などで妥協点を図りうる。



各論:

個人事業での資産売却の場合の主要税務考慮:

・ 税法1060条(FORM8594)に従って、売却価額を適確な対応資産毎に按分、配分する。
・ 不動産売却部分について、過年度減価償却分に対応する売却益は25%の税率課税。
・ その他の償却資産についての同上分は、「通常所得」課税、すなはち、最高で39.6%。
・ 償却分を超えるキャピタルゲイン部分は20%の優遇税率。 その他、純投資所得に関する3.8%の追加税項目にも留意。
・ 一方、資産売却で損失となった場合、全額控除可能(165条、1231条)。 FORM4797で申告。
・ 上記を踏まえ、節税対策としては、売却価額按分につき、不動産、無形資産などのキャピタル資産項目により多く按分することがスマート。 全体規模にもよるが、税務調査に備えたしかるべき資産鑑定評価書の準備にも留意する。

法人、パートナーシップ、LLC等での事業売却の主要税務考慮:

・ 「持分売却、株式売却方式」と、「資産売却方式」のいずれもとりうる。
・ Cコープでの事業売却では、「持分売却、株式売却方式」にて、キャピタルゲインの優遇税率適用に問題はないが、Sコープ、LLCなどにて、パートナーシップ税制をとっていた場合の売主側は、税項目、対象資産等の内容によって「通常所得課税」と「キャピタルゲイン課税」の両者の適用、分別に留意を要する。
・ 「資産売却方式」をとった場合、売主がCコープの場合には、法人レベルでの売却益課税がなされ、法人の解散、清算後に株主レベルでの配当金課税までを留意すること。 かつ、法人レベルでの課税につき、「キャピタルゲイン」も「通常所得」課税となる点、留意が必要。
・ Sコープ、パートナーシップ、LLC等での「資産売却方式」では、法人レベルでの課税はなく、株主、出資者個人レベルでの課税となる。 そこでは「通常所得課税」と「キャピタルゲイン課税」の分別留意が重要である。
・ 節税対策は、個人事業と同様、売却価額按分につき、不動産、無形資産などのキャピタル資産項目により多く按分することが賢明。

税法適格の売却価額按分プロセス(申告書フォームはFORM8594):

ステップ1; まず第一に現金ならびに市場性ある金融資産を個別把握。
ステップ2; 次に一般事業資産(売掛金、在庫、償却資産、不動産、土地等)の公正価値相当に按分。
ステップ3; 次に、無形資産に按分。 無形資産とは、競業避止義務、技術知的財産、機密資産、特殊ソフトウエアー、価値ある事業システム、顧客リスト、特殊契約、特殊作業環境、フランチャイズ権、著作権、パテントなど。 179条資産であり、公正価値測定され、買主は15年償却が可能。
ステップ4; 残額は営業権となる。実務としての差額概念であり、公正価値の限度外。

売却価額按分の事例:

・ Aさん(売主)はBさん(買主)に事業全体を$3,000,000で売却することに合意。
・ Aさんが契約した公正価値鑑定人による評価では;
 売掛金 $500,000
 償却資産 $200,000
 建物 $500,000
 土地 $1,000,000
 顧客リスト $350,000
 営業権 $450,000
 合計 $3,000,000
となった。  これであれば、売主のAさんとしては、キャピタルゲイン税率適用資産(建物、土地、顧客リスト、営業権)への価格按分が、売却価額全体の77%を占めており、満足出来る。
・ 一方にて、買主のBさんとしては、短期回収の売掛金、償却期間の短い資産へのより多くの価額按分が当然に節税効果が高く、 結果、両者の折り合いのつく、第二の公正価値鑑定人の下記、評価額をとることに合意した。 すなはち、
 売掛金 $550,000
 償却資産 $350,000
 建物 $500,000
 土地 $700,000
 顧客リスト $400,000
 営業権 $500,000
 合計 $3,000,000
である。 売主のAさんとしても、キャピタルゲイン優遇税率適用対象資産への価格按分が、全体の70%を占めており、妥協の範囲内である。

事業売買取引での資産按分申告書、FORM8594 での留意事項:

・ この申告書は、売主、買主、双方が取引完了年度での税務申告書(Form 1040、1120、1120S、1065など)に添付する必要がある。 原則、両者は同じ内容のFORM8594を申告すべきであるが、許容される範囲内にての相違は、両者が文書合意をする限りにおいてIRSも認める。 しかし、税務調査の確率は高まる。

「資産売却方式」にて、無形資産が関与する場合の留意事項:

・ 個人事業主が、自己開発の無形資産を有していた場合、売主としては当該自己開発無形資産の税務簿価はゼロであるので、当該無形資産への売却価額按分部分は、全額が売却益、キャピタルゲイン課税となる。 一方で、購入無形資産だった場合には、15年で償却されており、償却回収部分は通常所得課税、それを超える部分はキャピタルゲイン課税となる。 また、購入無形資産部分で損失となった場合には、全額、損金通算、控除可能。
・ Sコープ、パートナーシップ、LLCなどが自己開発の無形資産を有していた場合、同様にキャピタルゲイン課税となるが、当然に法人レベルでの課税はなく、パススルーによって、株主、出資者レベルでの課税となる。 また購入無形資産の場合の取り扱いも上記と同様にて、パススルー課税となる。 さらに、損失取引もパススルーにて控除可能。
・ Cコープが無形資産を有していた場合、まずはCコープの法人レベルにて、「通常所得課税」がなされ、Cコープの解散、清算後に、出資者レベルには配当金課税がなされる。

「持分売却、株式売却方式」にて、無形資産が関与する場合の留意事項:


・ Cコープ、Sコープ、パートナーシップ、LLCなどのいずれの売主も、出資者としてキャピタルゲイン優遇課税が受けられる。 ただし、パートナーシップ持分売却の場合には、ゼロベースの売掛金、償却資産の償却回収部分までは「通常所得課税」となることに留意する。

買主にとって、「持分取得、株式取得方式」のほうが実務上合理的な場合の留意事項(338条の選択適用):

・ 一般論として買主は「資産取得方式」を望むが、売主側からの資産移転に多大な労力、時間、コストを要する場合、例えば、建物リース権、ライセンス権、重要な顧客契約などを有する場合には、実務として、「持分取得、株式取得方式」が遥かに簡便である。
・ そうした実務に対応し、税法は338条の選択適用によって、買主側の税務上の便宜を図っている。 買主は法人(Corporation、Cコープ、もしくはSコープ)に限定されるが、上述のような現実対応としての「株式取得方式」という法的形式を採りながら、税務上は「資産取得方式」の優遇措置、選択を認めている。 すなはち、買収側法人は被買収法人の株式を取得しながら、税務上は買収資産の税務簿価のステップアップという便益をも採りうる。
・ 338条の選択適用には、338条(a)の「レギュラー方式」と、338条(h)(10)の「スペシャル方式」とがある。 前者の場合には、売主の法人レベル課税と、出資者レベルでの配当金課税の二重課税がありえるので推奨しない。 例外として、売主法人側に未使用NOL(繰越欠損金)、キャピタルロス、税額控除項目などが活用出来る場合にはワークしうる。 多くの場合には、後者の選択をすれば、税務上は「株式取得」は無視され、被買収法人の「みなし」資産取得として取り扱うことが出来る。

売主がSコープの場合での338条(h)(10)「スペシャル方式」選択適用の場合の留意事項:

・ Sコープの売主側では、当然に法人レベル課税はなく、法的形式としての株式売却後に法人は解散、清算され、パススルーにて株主レベルのみでの課税となる。 売主としては株式売却の結果、法人に帰属したあらゆる債務から開放される。
・ 一方、買主側は買収資産の税務簿価のステップアップを通じて、買収後の減価償却を合理的にとることが出来る。
・ 売主側、買主側での具体的実務ステップは以下のようである。
ステップ1; 買主側(Cコープ、Sコープ、いずれも可)は売主側株式の80%以上取得が必要。
ステップ2; 売主(Sコープとその株主)と買主は、ともに338条(h)(10)の選択適用を申告する。 その結果、両者ともに、法的形式は「株式売買方式」を採りながらも、税務申告上は「資産取得方式」をとる。 当該選択の申告書はFORM8023にて、売主S法人、ならびにS法人株主が署名し、買主側が売買契約成立後、8ヶ月半以内にIRSへ提出。
ステップ3; 株式売買契約成立後でも、売主法人そのものは買主法人の子会社として存在する。 結果、売主法人内債務なども存続し、それは売主にとって有利である。
ステップ4; 売主側の税務実務としては、みなし資産売却取引となり、Sコープ法人レベル課税はなく、株主レベルにてSコープ内の対象資産項目に応じてキャピタルゲイン課税、通常所得課税となる。 申告書はFORM4797。
ステップ5; 上述のごとく、売主Sコープとしては税務上は清算とみなされ、Sコープ株式売却そのものがSコープからの残余財産分配と見做される。 その税務上の効果としては、Sコープ株式の税務上の簿価がみなし資産売却の結果、増額されるが故、みなし清算所得課税は限りなくゼロに近い。 Sコープ株式売却そのものが税務上は「無視」されるとは、そういう意味である。
ステップ6; Sコープ株式売却年度に、Sコープは最終法人税申告書、FORM1120Sを提出。 その最終法人税申告書上、法人資産のみなし売却取引、ならびに、その後のみなし清算取引が反映される。 これにて、Sコープ株主としての税務は完了する。
ステップ7; 一方にて、買主側、買収法人側として株式取得後の元S法人は、税務上では「新会社」かの如くリフレッシュスタートする。。 すはなち、「新会社」の資産価額は税務申告書上は、公正価額にステップアップされる。 元S法人の「会計帳簿」と、「税務申告簿価」との乖離が必然と生ずる。 しかし、会社法上(各州会社法)は、依然と存続し、全ての事業関連債務は元S法人の内部に留まる。 売主側には望ましいに相違ない。

買収事業の将来業績を踏まえての売買価格不確定条件契約(’’Earn-Out’’DEAL)の場合の留意事項:

シナリオ1; 売主が受領しうる上限価格にて、かつ、想定しうる最短時点にて、売却利益、利益率を算定し、各分割入金について、売主の売却資産ないし、売却株式の税務簿価回収部分は非課税、それを越える部分は課税対象とする。 想定以下の業績にて、上限価格が過大であった場合には、その後の分割回収額に対しては、減額修正した利益率にて課税申告する。 このシナリオは、売主側にとっては不利であり、実務としては売主法人側にキャピタルロスの繰越、NOLなどが十分存在する場合に限られる。

シナリオ2; 分割、延払いの期間を取り決めるが、売買価格の上限価格は不確定の場合。 この場合、売主側の税務処理は、分割入金分に対応する「費用配分」として、対象資産、対象株式の税務簿価を分割金回収年度毎に均等配分する。 一方で、買収事業の業績悪化などにて分割収入が減少する場合には、費用配分としての税務簿価配分も減額させる。 分割入金の内、税務簿価回収分までは非課税、それを超える部分が課税は同様である。 売主にとって、シナリオ1よりは有利。

シナリオ3; 売却価格の上限も、分割金回収期間のいずれも不確定の場合。 その場合には、まずは売主、買主、両者がそもそも税務上の売買契約が生じたのか否か、はたまた、買主からの支払いが売主へのロイヤルチー、あるいは賃貸料など、別の取引内容なのか、、、を決定せねばならない。 そして、「売買契約」と双方が合意した場合には、その分割金回収は税務上は15年均等にて益金算入する。 税務簿価回収分までは非課税、それを超える分が課税は同様。 シナリオ3が、シナリオ2より有利か否かは単純でない。 将来への不確定要素、分割回収金の全体額、将来業績を如何に確からしく予測するか、による。
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