国際会計基準審議会(IASB)は、2014年5月28日に新しい収益基準であるIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益 (Revenue from Contracts with Customers)」を公表した。また、同日、米国財務会計基準審議会(FASB)もこれと同等な収益基準である会計基準更新書(ASU)2014-09「顧客との契約から生じる収益 (Revenue from Contracts with Customers (Topic 606)」を公表した。これらの基準書は、両審議会によるコンバージェンス・プロジェクトの成果であり、実質的に同等の内容になっている。このIFRS第15号は、リース、金融商品、保険契約等を除くほとんどすべての顧客との契約に適用される。 この共通の新たな収益認識基準の根本的精神として、収益認識、売り上げ計上につき
が挙げられるだろう。 IFRS第15号では下記のような5つのステップから構成される収益認識モデルが定められている。
Step 1. 顧客との契約の識別 (Identify the contract(s) with a customer) 以下の要件をすべて満たす場合にIFRS第15号の範囲に含まれる顧客との契約について会計処理をしなければならない。 · 契約の当事者により契約が承認されている · 移転される財またはサービスに関する当事者の権利が識別されている · 移転される財またはサービスの支払い条件が識別されている · 契約に商業的実態がある · 顧客に移転される財またはサービスと交換に権利を得る対価を企業が回収する可能性が高い また、IFRS第15号には契約変更に関する詳細な規定が設けられている。事実及び状況に応じて、契約変更は別個の契約として又は当初契約の条件変更として会計処理される。
Step 2. 契約に含まれる個別の履行義務の識別 (Identify the performance obligations in the contract) 契約開始時に契約条件を評価し、以下のいずれかの約束した財またはサービスについて独立した履行義務として会計処理すべきものを識別しなければならない。 · 区別できる財またはサービス、もしくはそれらの束 · 実質的に同じであり、かつ顧客への移転のパターンが同じである一連の区別できる財またはサービス 独立した履行義務を識別するうえでの重要な要因は、財またはサービス、あるいはその組合せが区別できるかどうかである。区別できる財またはサービスはそれぞれが独立した履行義務となるからである。
Step 3. 取引価格の決定 (Determine the transaction price) 取引価格とは、約束された財またはサービスを顧客に移転することと交換に受け取る権利を得ることが見込まれる対価の金額を指す。 契約において、リベート、インセンティブ、実績ボーナス、ペナルティーなどの項目によって約束された対価が変動する可能性がある場合、企業はその対価の金額を見積もらなければならない。また、対価を受け取る権利が将来事象の発生または不発生のという条件の場合も変動対価の見積もりが必要である。 また、IFRS第15号は知的財産のライセンスに係る売上及び使用に基づくロイヤルティに関し、そうした対価は事後的に売上又は使用が生じるまでは取引価格に含めてはならないと定めている。
Step 4. 契約に含まれる履行義務への取引価格の配分 (Allocate the transaction price to the performance obligations in the contract) 企業は、区分できる財またはサービスの単独販売価格(顧客に約束された財またはサービスを個別に販売する場合の価格)を契約開始時に決定し、それらの単独販売価格に比例するように取引価格を配分しなければならない。 単独販売価格を決定するにあたり、企業は客観的な販売価格に関する情報を使用しなければならない。単独販売価格に関する客観的な情報を入手できない場合は、合理的に入手可能なデータに基づき単独販売価格を見積らねばならない。
Step 5. 履行義務充足時の収益認識 (Recognize revenue when (or as) the entity satisfies a performance obligation) 企業は、約束した財またはサービス(資産)を顧客に移転することにより履行義務を充足した時点で収益を認識しなければならない。顧客が資産の支配を獲得した段階でその資産は移転する。 履行義務は、一時点で充足される場合と一定期間にわたり充足される場合がある。以下の要件のうちいずれか1つでも満たす場合は、履行義務は一定期間にわたり充足される。 · 企業の履行に応じ、顧客は、その履行による便益を受け取ると同時に消費する · 企業の履行により、資産が創出されるか又は増価し、かつ、資産の創出又は増価につれて顧客はその資産を支配する · 企業の履行により、企業にとって他に転用できる資産が創出されず、かつ企業はそれまでに完了した履行に対し支払いを受ける強制可能な権利を有している 一定の期間にわたり充足される履行義務について、企業は、その履行義務の完全な充足に向けた進捗度を測定することにより一定の期間にわたり収益を認識しなければならない。
これら5つのステップから構成される収益認識モデルに加え、IFRS第15号には契約を獲得するための増分コストと契約の履行をするためのコストの会計処理も定められている。これらのコストは、回収が見込まれる場合には資産計上され、その資産は顧客への移転と整合するように規則的に償却されなければならない。
IFRS第15号は、2017年1月1日以後開始する期間における企業の最初の年次IFRS財務諸表より適用される。本基準の適用は強制である。早期適用は認められるが、その旨を開示しなければならない。 なお、Topic 606は公開企業による早期適用を禁止しており、2016年12月15日より後に開始する年度より発行するので注意が必要である。 参考文献: Financial Accounting Standards Board, Accounting Standards Update 2014-09, Revenue from Contracts with Customers (Topic 606), May 2014
International Accounting Standards Board, IFRS 15, Revenue from Contracts with Customers, May 14 |
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